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[サーファー院長の骨休め]コラム::「アダプティブサーファー」
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「アダプティブサーファー」
そのサーファーの不思議な足さばきを見た瞬間、目を奪われた。そばにいたサーファーが足に障害があるのだと教えてくれた。彼は、その波を乗り終えると海から上がって砂浜に腰を下ろしたので、彼に近寄り、「今、あなたのことを聞きました。話を聞かせてもらってもいいですか?」そう話しかけると笑顔で応じてくれた。

20数年前、事故でバイクが炎上し、足に深刻な大火傷を負ったのだと言う。両足の付け根から下の皮膚は、腫れ上がり、筋肉までも剥ぎ取られ、尻、背中、頭の皮膚を足に移植する手術を11回も行った。痛みで気が狂いそうなりながらも必死に耐えた。皮膚が突っ張り、最初は、歩くこともままならなかった。リハビリの先生に「君がこのまま歳をとり、筋力が衰えた時、車椅子になるかもしれない。」との言葉に奮起した。「車椅子なんて冗談じゃない。」以降、一晩中病棟の廊下を歩き続け、懸命のリハビリで社会復帰を果たした。次の目標は、再び波に乗ることだ。事故後4年半、遂にその日が来た。

デビュー戦は、通い慣れた大磯と決めていた。友人にそばに着いてもらい、一歩一歩海に歩み出す。足首に触れる軟らかい水の感触。「これだ!」あの感覚が甦ってきた。ボードにしがみつきパドリングを開始する。跳ね上がった潮水が口元に触れ、それを舐めた瞬間、一気に涙が溢れ出した。「俺は、とうとうここまで来たんだ。」今迄の壮絶な体験が全て報われたのだ。涙が止まらない。口を開けて海水をがぶがぶ飲んだ。海水がこんなにうまいなんて。海と一体化した瞬間だった。ボードの上に立つことができなかったことは、悔しかったが、海に浸かったことが第一歩だった。

それから猛練習が始まった。事故前は、全日本に出る程の腕前だったのだ。俺に出来ないはずがない。試行錯誤を繰り返しながら、やっと自分なりのテイクオフを習得した。一度右膝を付き、次にボードの外側をぐるっとぶん回すように左足を前に出し、爪先立ちのまま、左太腿の筋力一本で立ち上がる技を編み出した。骨、筋肉、皮膚が癒着し、足首が動かないのが最大のハンディーだが、元来の身体能力で克服した。

50を過ぎた今、人生が楽しくてしょうがない。少しくらい足が動かなくてもそれをどう乗り越えるかを試しながらやっている。「この歳になっても何かに挑戦できるっていいよね。」と日焼けした顔がほころんだ。「人間、簡単には、殺してくれないんだな。」と神様を恨んだこともある。しかし、今は、こうやって楽しく生きている。

先日30年振りに千葉で大会に出た。準決勝で敗退したことにまたコンペティター魂に火がついた。次の目標は、カリフォルニアで行われる障害者サーフィンの世界大会の出場を夢見て練習に励んでいる。
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